慈悲的性差別(benevolent sexism)とは何か?優しさに見える性差別

「女性は守るべき」という言葉は本当に優しさか? 慈悲的性差別の定義や特徴、具体例を通じて、問題点を考えます。

目次

はじめに

一般的に、「性差別」といえば、「女性を攻撃するもの」「女性に敵意を向けるもの」を指していると思われてきました。「性差別」について考える機会が増えた今だからこそ、その裏に潜む”優しさを装った性差別”について、具体例を交えて、問題点と解消方法について考えます。

これまでの性差別の理解

今までは、「性差別=受け取った女性がネガティブな印象を受けるもの」と思われてきました。

例えば、「女性は性的な魅力を通じて、男性を利用しようとしている」「女性には、会社経営に必要な能力がない」といったような発言が、これにあたります。一方で、性差別についての理解がある程度広まり、意識するようになったことで、”もう1つの性差別”を無意識にしてしまうようになった人がいるのではないかと感じています。

慈悲的性差別の定義

Peter GlickとSusan Fiskeは、1996年の論文の中で、従来認知されていた「敵意的性差別(hostile sexism)」と対比させる形で「慈悲的性差別(benevolent sexism)」を提示しました。彼らは「慈悲的性差別」を以下のように定義しました。

女性をステレオタイプ的かつ限定的な役割で捉える点で性差別的であるが、認知する側にとっては主観的にポジティブな感情を伴い、さらに手助けや女性とより親しくなるための行動のように一般に向社会的とみなされる行動を引き起こしやすい態度の集合である。(原文を和訳)

慈悲的性差別の特徴

「敵意的性差別」が女性に対する敵意・嫌悪を指すのに対し、「慈悲的性差別」は、性差別的な男性にとっては主観的にポジティブな感情を伴う女性への態度であると言っています。

ここで私たちが注意しなくてはいけないことは、定義の “認知者”に女性が含まれる場合があることです。後にも具体例として挙げますが、男性が女性に「かわいいね」といった場合、状況や人によってはポジティブな感情をもつこともあるでしょう。

そして最も重要な点は、慈悲的性差別は、敵意的性差別と同じく、以下の2つを共有しているということです。

  • 基盤には伝統的なステレオタイプや男性優位が存在する
  • 有害な結果をもたらす可能性がある

このことによって、慈悲的性差別は

  • 制度的、または伝統的な性差の維持に貢献してしまっている
  • 女性の損につながっている

と言えます。

慈悲的性差別の難しさ

慈悲的性差別は、男性にとっても女性にとっても「差別をしている/されている」と自覚しにくいものです。

なぜなら、敵意的性差別がわかりやすく良くない結果を生み出しているのに対し、慈悲的性差別は一見すると良い態度に見えるからです。

つまり、その場ではポジティブなものに見えても、有害な結果が遅れてやってくることがあります。そのため、男性側も女性側も、それがどんな結果をもたらすか、しっかり意識して考える必要があります。そのことを、具体例を通して考えます。

慈悲的性差別の具体例

発言例1:男性社員が女性社員に「かわいいね」といった場合

これは論文の中で挙げられている具体例です。

ポジティブな捉え方

  • 純粋な誉め言葉であり、言われてうれしいことも場合もある

ネガティブに作用しうる点

  • 仕事ぶりを評価されたいのに、容姿ばかり見られているという不信感が生まれる
  • 親密な関係ではない人に言われた場合、不快に感じ、その後の信頼関係に亀裂が入る

発言例2: 「女性に残業させるのは負担になるから、ほどほどに仕事を任せるよ」

ポジティブな捉え方

  • 女性に負担を増やさないように配慮している

ネガティブに作用しうる点

  • 難易度の高い業務や責任ある仕事から外されることで、スキルアップや昇進の機会を奪っている可能性がある
  • 本人がやりたいことを十分に共有されていない場合、本人の希望を無視した人員配置になる可能性がある
    また、「男性が責任ある仕事をやるべき」といった性差の固定化に貢献することになります。加えて、間接的に男性側に不満が生まれる可能性も無視はできないと思います。

発言例3: 「女性は細やかな気配りができるから、議事録作成をお願いしたい」

ポジティブな捉え方

  • 女性の得意なこと(あるいは、そう思われていること)を尊重している

ネガティブに作用しうる点

こちらも、発言例2と同様、本人の意思を尊重しておらず、希望しているキャリア形成の機会を奪っている可能性があります。

また、得意不得意は性別によらず、個人個人にあるものです。その仕事で必要なことは、本質的に性別で決まらないと思います。こういった考え方をする上司がいる場合、男性のキャリア形成にも悪影響を与えている可能性があります。

どうすればなくなるか?

私は、対話を怠らないことが1番重要だと考えています。すなわちコミュニケーションです。

普段の自分の言動を思い出してみてください。男性or女性といったラベルで結論付けていることはないでしょうか?あるいは、そのような2元論的な考え方をする癖はないでしょうか?

「○○だから」と決めつけてしまうのは簡単ですが、人によって考えていること、持っているスキル、歩んできた人生は多種多様で、複雑なものです。またそれは時間の経過とともに変化します。

会社であれば入社時に面接がありますが、入社した後にやりたいことが変わったりできることが増えたりすることはよくあることです。また、その人が1度発言したことについて、次の日には気が変わっているかもしれません。1度趣味だと言っていたことも、そのうち飽きて別のことにハマっているかもしれません。それを聞かないで、「この人は○○だからこういう人」と自分の中で決めつけてしまうのは、意味がないどころか、相手を害する結果になりかねません。

相手は、その時その時を生きる人間であり、ほかの誰とも異なる個人です。定期的に相手と言葉を交わし、常に相手のことを理解しようと努めることです。良い職場環境をつくるために、まずは自分が内省して、このやさしさの仮面を被った差別をなくしていきましょう。

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この記事を書いた人

ITベンダーでSEとして働いている駆け出しエンジニア。
プログラミング未経験で入社したため、周りに追いつこうと奮闘中。

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