はじめに
プロジェクトマネジメントにおいて、「計画」はもちろん重要ですが、計画を立てただけでは成果は得られません。実際に人やモノを動かし、成果物を生み出していく段階が「実行のプロセス群」です。
JIS Q 21500:2018(プロジェクトマネジメントの手引き)では、プロセス群を「立ち上げ」「計画」「実行」「監視」「終結」と整理しており、その中でも実行はプロジェクトの成否に直結するフェーズといえます。
本記事では、「実行のプロセス群」を構成する要素について、JISの用語を使いながら解説します。さらに、PMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)や実務での具体例とも比較し、読者の方が現場で活用しやすい視点を提供します。
実行のプロセス群の概要
実行のプロセス群とは、計画段階で定めた内容を現場で実行に移し、成果物を作り出すための活動です。単に「タスクを進める」ことにとどまらず、以下のような活動が含まれます。
- チームや資源の確保と活用
- コミュニケーションの促進
- 品質の確保
- 調達の実行
- ステークホルダー対応
つまり、成果物をつくる「作業」そのものだけでなく、プロジェクトを円滑に進めるための「人・情報・品質・外部調達」などのマネジメント全般をカバーするのが実行の特徴です。
プロセス(活動)と主要成果物
ここでは、JIS Q 21500:2018に示されている対象群の用語を用いつつ、それぞれを具体的に解説します。参考までにPMBOKとの対応も示します。
対象群(JISの用語) | 解説(独自の言葉) | 主要な成果物 | PMBOKとの対応例 |
---|---|---|---|
資源 | プロジェクトに必要な人材や設備、ツールを活用する。特に人材については、メンバーの能力を高め、士気を維持しながら役割を割り振る活動が重要。 | 組織編成表、役割分担表、教育計画 | プロジェクトチームの開発 |
コミュニケーション | 関係者間での情報共有や意思疎通を円滑にする。報告会議、進捗レポートだけでなく、ステークホルダーとの信頼関係づくりも含まれる。 | 議事録、進捗報告書、ステークホルダーへの通知 | コミュニケーション管理、ステークホルダー・エンゲージメント |
品質 | 成果物が規定された基準を満たしているかを確認・保証する活動。計画された品質基準に従い、レビューや試験を実施する。 | レビュー記録、試験報告書、品質保証計画の実施結果 | 品質保証 |
調達 | 必要な外部資源(製品・サービス)の契約や調達を行う。契約条件に基づき、ベンダー管理を進める。 | 契約書、発注書、納品記録 | 調達の実行 |
統合 | 計画の各要素を調整しながら実行し、変更があれば整合性をとる。プロジェクト全体の進行を「ハブ」として支える。 | 作業指示、変更管理記録 | プロジェクト作業の指揮・マネジメント |
このように整理すると、JISとPMBOKは表現こそ異なりますが、活動の本質はかなり共通しています。
具体例
ここでは、システム開発プロジェクトを例にとって、実行プロセス群がどのように働くかをイメージしてみましょう。
例:新しい基幹システムの導入プロジェクト
- 資源
- プログラマー、テスター、インフラ担当を確保し、開発チームを編成。
- チームメンバーに研修を行い、新しいフレームワークに対応できるようスキルアップ。
- コミュニケーション
- 週次の進捗会議を開催。課題を共有し、ステークホルダーに最新の状況を報告。
- 顧客担当者とはチャットツールで日次の連絡を取り合い、要望変更を素早くキャッチ。
- 品質
- コードレビューを実施し、基準を満たしているか確認。
- テストケースを事前に作成し、成果物が要求を満たすかどうかを試験。
- 調達
- 外部ベンダーにサーバ機材を発注。納期に合わせて検収手続きを実施。
- 必要に応じて追加ライセンスを契約。
- 統合
- 計画にない仕様変更が発生した際、影響範囲を評価し、計画を修正。
- 他部門との調整を図りながら、スケジュールとリソースを再配分。
このように、実行のプロセス群は「単なる作業実施」ではなく、人・モノ・情報をマネジメントしながらプロジェクトを推進する全体的な活動です。
まとめ
実行のプロセス群は、計画を現実に変えるための中核フェーズです。
JIS Q 21500:2018の用語を整理すると、資源・コミュニケーション・品質・調達・統合といった切り口で活動が定義されており、PMBOKのプロセス群とも多くの共通点があります。
読者の方が実務に活かす際のポイントは以下のとおりです。
- 「資源」は人材育成と役割分担に注力すること
- 「コミュニケーション」は情報伝達だけでなく関係構築も含むこと
- 「品質」はレビューやテストを通じて保証されること
- 「調達」は契約と納品管理がカギになること
- 「統合」は全体を調整し続ける活動であること
プロジェクトの成否は、計画よりもむしろ「実行」の巧拙に左右されます。チームを動かし、ステークホルダーと関係を築き、成果物を基準通りに完成させる。この活動を的確に回していくことが、成功するプロジェクトマネジメントの要諦といえるでしょう。
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